万年筆はロマンである。(カクノ後編)
この企画は、デジタル化が進む現代においての文房具のあり方について考え、社会的な視点で文房具好きが語る……というものではない。
私が使って「これは誰かにオススメしたいぞ!」と思った文房具を独自の視点という名の愛と偏見で皆様を文房具店へと誘うという企画である。
万年筆についての当たり障りのない知識と私の腐ったみかんのかろうじて腐っていない部分をかき集め、なんとか始まったこの企画だが、二週目である。
前回は、財布の紐に優しい万年筆カクノを紹介した。紹介したと言っても、本当に紹介しただけである。
名前を上げて「良かった」と言うだけなら小学生でも出来る。残念ながら、私は立派な青年である。気取った横文字をつらつらと並べてドヤ顔をするくらいの知識を持ち合わせている。
果たして前回の記事で本当にカクノの良さをお伝えできたのか?
そんな疑問符が私の頭の周りでぐるぐると衛星のように回った。それはもう鬱陶しく、万年筆のことを四六時中とまでは行かないが、二、三時間くらいは考えていた。
「記事を書き直そうか?」
「ブログ自体を作り直したほうがいいんじゃ?」
「俺の人生、本当にこれでいいのか?」
そんなこんなで、今回もカクノについての記事である。前回の記事の中で、カクノをもう一本追加で購入した、とサラッと述べたことを記憶している。この新しく買ったカクノが今回の主役である。
この前の記事では述べなかったが、万年筆の大きな要素にインクというものがある。
インクはロマンの塊である。
万年筆を始めるならインクもしっかりしたいのだ。万年筆でインクを楽しむにはカートリッジでは物足りない。カートリッジとは、詰め替えのインクで人差し指くらいの大きさの物である。
そこで、同じ会社であるPILOTから発売のインクである、色雫というインクなら24種類のカラーラインナップがある。
しかし、これで文字を書くにはコンバーターというパーツを取り付ける必要がある。これは、カートリッジの代わりに万年筆にインクを貯めておくものである。
今回記事を書くために買ったのが、このコンバーターと透明軸カクノ、そしてインクだったのだ。色雫は色の名前が個性的でかっこいい。かっこいいのは重要である。
ちなみに、三種類を少しずつ買うことも出来るので、いろいろな色を試したい人には超オススメである。万年筆を持っている知人がいる方はプレゼントにするのも良いかもしれない。
そして少し注意が必要なのがコンバーターである。
今回使用するのはPILOT純正のCON−70。本来なら、カクノのコンバーターにはCON−40が推奨されているのだが、この40型はその構造上、小さい球が数個入っており、それが筆記時にカチャカチャ鳴ってしまうのだ。更に70型はインクの充填量も多いため、おすすめである。40型は約400円、70型は約700円と値段が少し違い、インクの吸入方法も違うので注意していただきたい。
価格 | インク吸引方法 | |
CON-40 |
400円(税抜) | 回転吸入式 |
CON-70 | 700円(税抜) | プッシュ式 |
上の比較表を参考にしてどちらのコンバーターを使うか選ぶと良い。不安な方は、公式が推奨しているCON−40を使用するのが吉である。
そして、今回使うコンバーターCON−70のインクの吸入方法はプッシュ式である。
プッシュ式のコンバーターはその名の通り、ペン先をインクボトルに沈め、コンバーターの尻を押すことでインクを吸い上げる。スポイトと同じような仕組みと考えると簡単だ。
ちなみに、回転吸入式はしっぽの部分を回すことでピストンが上下し、インクを吸い上げる仕組みである。こちらは注射器と同じような仕組みだと考えると簡単だろう。
いざ、初めてのインク吸引。と意気込んで透明軸カクノを取り出す。
コンバーターをはめ込み、ペン先をインクボトルへ突っ込む。ティッシュを準備しておくのを忘れたことに気づき、必死に右手を伸ばすが、すでにインクに浸かった万年筆を持つ左手がプルプルと震える。まずい、ボトルが倒れて部屋中が真っ黒になる未来が見えた。なんとかティッシュの箱を指で弾き、手元へ引き寄せる。
なんとかインクの吸引を終え、ほっと眺めのため息を吐く。透明な胴軸の奥にはインクの溜まったコンバーター。少し泡立っているのが気になるが、時間が経てば滑らかになるだろう。筆記もしてみたが、普通の黒にしてしまったせいか、特に変わった印象はなかった。
数カ月経って、大分慣れてきた。特に、インクを吸引するのは楽しい。シャープペンシルの芯の補充や、ボールペンの替え芯交換とは全く違う、言うならばリボルバーをリロードしているような、そんな感覚なのだ。リロードしたことないけど。
普段なら煩わしいと思う筆記用具のリロードも万年筆なら楽しめる。インクを補充している一分足らずの時間は、勉強や執筆で張り詰めた気持ちにゆとりを与えてくれると私は思うのだ。
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