知らない街を謳歌する
中野を謳歌 第06回 知らない街を謳歌する。
このブログはフィクションであり、筆者の妄想と夢で出来ている。真に受けたことによる一切の責任は負いかねるので悪しからず。
先日、久しぶりに映画鑑賞を謳歌しようではないか!と電車に乗っていた。
元々の最寄りの映画館は何やら改装中らしく、それにより、映画を見るには電車で少し移動しないといけなくなってしまったのだ。
今回向かうのは初めて降りる駅。少しのワクワクとちょっぴりのドキドキ。小さい頃から冒険だ! と言ってよく家を飛び出す少年時代だった。
冒険家にしてはちと体力と運動能力が足りていなかったし、一度遠くまで行き過ぎて号泣しながら自転車でフルスピート疾走し、ヘトヘトになって減速したところで交番のお兄さんに救助されるという失態を犯してからは冒険はやめた。
目的の駅に到着したのはちょうど昼過ぎだった。駅ビルを軽く散策し終わって時間を確認すると、そろそろ映画館の方へ出発してみようかなという頃合いになっていた。
スマートフォンの地図アプリを開き、少し歩いては脇によって立ち止まり地図を確認、というのを5回ほど繰り返す。ところで、最近googlemapの現在地が上手く機能しません。
この前渋谷に行った時、道に迷ってハチ公付近で地図を見たところ、現在地を示す青い丸がみるみるうちに移動していき、迷っているはずなのに「俺がいるのはここではないだろう」わかるくらい座標がずれてしまいました。人の多さが原因かもとは思いましたが、だとしてもなんでとんでもない勢いで移動したのでしょうか。ハチ公前にいるのに紀伊国屋書店くらいまで飛んでいきましたよあの青丸。
駅ビル周りの喧騒も少し遠くなり、昼過ぎの日差しが心地良い。5月上旬当時、昼前の暖かさが一番過ごしやすいのだ。夏になると暑さは早朝と深夜にまで勢力を広げ、人類の精力を奪っていくのでこれからのことを考えると少しげんなりした。
未来の熱帯夜よりも今の温暖湿潤な昼を楽しもうじゃないかと気を取り直して、私は歩を進めた。初めての街なので道路を囲むビルもすべて目新しい。クリーニング屋さんの哀愁のある建物いいなぁ、なんて思いながら歩くのは楽しい。すると、4階建てくらいのビルが目に入った。時にひときわ大きいわけでもなく、一般的なビルだ。ただ、看板が目を引いた。ちょうど二階くらいの高さで2,3メートルくらいの大きさの横長の看板だった。看板の両サイドにはタイトで短い黒いスカートを履いた女医とピンクの看護服を着て前かがみになっている看護師。あと全体的に背景がピンク。遠目から見て、もしかして……と思いながら近づくと、案の定と言うべきか、看板の中央には控えめなサイズの明朝体でこう書いてあった。
大人のお医者さんごっこ
私はしっかりと目に焼き付けた。これでお医者さんプレイをしたいときの行き先には困らない。もっと他に困ることがありそうなものだが。
エッチな店があることくらいはどうでもいいのだ。エッチな店とか、エッチなバイト募集のトラックでいちいち騒ぐのは高校生までだ。私はお医者さんプレイ熟練者ですが何か?という顔でそのビルから一分も経たないくらい歩くと、ビルの前で経っている若い男性が見えた。飲食店の客引きかなと思いながら少し距離をとりつつ横切ろうとした時だった。「休憩していきませんか?」と声をかけられた。怪訝に思いつつその男の方を見ると、私は驚いた。店の看板にエッチな女の子と明らかに漫画喫茶等では考えられない単位の料金設定。あえて断言しよう、昼間から開店しているエッチな店である。
そこで私の鋭い勘が冴え渡る。
駅前から少し歩いたとはいえ、人通りが少なすぎる。映画館がこの先にあるんだぞ、もうちょっと人通りが多くても良いのではないか。ここからも完全なる私の妄想だが、ここはエッチな店が軒を連ねる通称ピンク通りと呼ばれてて、近隣の小中学校ではこの通りを通らないように指導されていて、主婦たちもよっぽどの用が無い限り通らない道なのではないだろうか。あくまで妄想であるが、そう思うと、なんだか昼間なのに恐ろしくなってきた。
私は客引きというものが大の苦手である。
思い出話をしよう。高校一年生の時分に、社会見学で東京へ行くという行事があった。当日、私達のグループは原宿の竹下通りへ到着した。私も来たことがなかったので面白半分で周りを眺めていた。隙間のない人混みだけが気がかりだった。
なんとか置いて行かれぬように通りを進んでいると、イケイケ数人組がなにやら店員と話している。外国の人のようで、片言っぽい日本語でウェーイだのフゥーだのノリノリである。イケイケの一人がかぶっていた帽子が気になっていたようで、カッコイイネーオニイチャーンとか言ってた。話し込んでもしょうがないのでバイバーイとイケイケの彼らが別れを告げると外国のあんちゃんはマッテヨーとか言っていた。なんだこりゃと私があとを着いていくと、さっきまでの上機嫌はどこへやら、感情を失った顔で私を見たと思ったら一瞬で目をそらした。興味ナシだったようだ。すまなかったな、ダサい格好で。
ちょっぴり傷つつきつつ数歩歩くと、前ではまたイケイケ数人組が外国の人に声をかけられている。
カッコイイネー→バイバーイ→無表情→すまなかったな、ダサくて。→ちょっと歩く→カッコイイネー→バイバーイ→無表情→ハイハイ、ダサいですよ俺は。→ちょっと歩く→カッコイイネー→バイバーイ→何ならちょっと睨まれる→えっ。→ちょっと歩く→カッコイイネー→バイバーイ→無視→俺には帽子は似合わないってか→ちょっと歩く→カッ……
いやどんだけ客引きいるんだよ!
私は激怒した。あんなに毎日のようにメディアが取り上げている地域がこんなハイペースな客引き通りなんて聞いてないぞ! 流石にイケイケ数人組も疲れたようで、近くの甘味処で休憩しようということになった。私は人混みにあてられて胃が小さくなっていたので外で彼らが買い物をするのを待っていた。当然声はかけられなかった。俺一人なら最速で竹下通りを抜けられるのでは、とすら思った。
マラソンのコースに竹下通りが含まれていないことを悔やんでいると、イケイケのうち二人の帰りが遅い。どうやらトイレに行ったらしいが、この通りでトイレを借りれる場所があるのか……と思っていると、衝撃の事実が。
客引きのお店でトイレ借りてる。
残りのメンバーでそのお店の方へ向かうと、イケイケ二人組はカタコト客引き兄ちゃんと話していた。断りきれないでいると、カノジョタチモコイヨーとグループの中の女子を手招きする。行ったらなんかマズいのは分かっているものの、女子たちは数歩前へ出る。うるさい通りを一本逸れただけでこんなにも静かなのかというほど喧騒は他人事。
私は焦った。このままでは客引きに班員全員連れていかれ、なにがしかの高額請求をされてしまうのでは……? もちろんただの思い過ごしであったことを祈りたい。
そこで私の機転が火を吹いた。息を吸い、久しぶりに声を出した。
「そ、そそそ、そろそろ出発しないと、帰りのじっ、時間に間に合わない、のでわ~ぁ?」
全員がこっちを見た。わざとらしく班員を手招きし、腕のちゃちな時計を見せる。彼らと一緒に客引きあんちゃんがダイジョブダイジョブとか言ってイケイケ男子の肩を掴んだ。
「いや、ワタシタチ、メチャトオクカラキタ。モウ、イカナキャ!」
なぜ片言なのかは今でも分からないが、そう言って私はイケイケ男子を引っ張った。あんちゃんはまだ何か言っていたが、バイバーイと手を振って早歩きで振り抜いた。
路地から抜けて、通りの騒がしさで耳が痛くなりそうになったとき、かすかに「ありがとう中野くん、格好いいね」と聞こえた気がした。後半は明らかに脳内補正であったが、前半は確かに聞こえた。
この話を通して何をいいたいかと言うと、
長くなりすぎて映画の話が一文字も出来てないじゃないか!
ということで映画鑑賞を謳歌する。続きます。
追記:竹下通りに行く際は是非地味な格好で行く事を強くおすすめする。個性を出そうとか、張り切ったファッションをしたりしてはいけない。東京は悪意の街である!
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