不可能性って言葉、大好き。【四畳半神話大系_感想】

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カテゴリ【小説】

タイトル【四畳半神話大系(森見登美彦)】

評  価【明石さんを虫から守りたいで賞】

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〈概要〉

 薔薇色のキャンパスライフを夢見る大学2回生の主人公。夜道で出会えば妖怪と見まごうような出で立ちの小津、学生でありながら仙人のようであり、天狗のようでもある樋口師匠、美しき黒髪の乙女であり孤高の明石さん、歯科衛生士で酔うと顔を舐める羽貫さんたちに囲まれた主人公が平行世界で繰り広げる愉快な物語。

 

〈感想〉

 不可能性。そんな言葉が作中に登場する。夢や希望を大切にすること、言い換えれば可能性を信じること。しかし樋口師匠は言うのだ。もしも……などという薄っぺらいものではなく自分の中の普遍的なもの、変えることの出来ない性根こそが大事であると。

 作中ではどの部活に入っても薔薇色のキャンパスライフの外にはじき出され、妖怪のような悪友に出会い、同じ人に恋をする。

 まるで平行しているはずの世界がどこか一点に集まってゆくように、彼の人生は進んで行く。だから、あのときこうだったらなぁ、という仮定には意味はないのだ。結論は時間が教えてくれる。

 平行世界ごとに存在する無数の四畳半は、果てしなく広いようにも感じる。しかし一点に集まった終点は、突き詰めるとただ一つの四畳半なのだ。

 ということで四畳半神話体系。

 森見登美彦さんの作品は夜は短し歩けよ乙女を初めて読んでから、独特な文体に抱きつかれて、他の作品も読んでみたい! そんなキッカケで出会った本だった。

 薔薇色のキャンパスライフのはずだったのになぁ、それもこれも何だったらあれもサークル選びと小津が悪い、と後悔。それだったらと別のサークルに入った平行世界を覗き込んでみるとそこでも後悔。どこ行っても小津。どこ行っても師匠は師匠。

 人の不幸で飯を食うような妖怪が至る所で活動し、そこそこの地位を獲得していて、しまいには小綺麗なアパートに住んでるってんだから面白い。

 明石さんも不思議な人だ。理知的な部分から、文学部でひっそりと本を読んでいるような偏見を抱いてしまうが、全くそんなことはなく、様々なサークルで自分の道を突き進み、樋口師匠の弟子でもあるのだから、行動力や好奇心というのは人一倍である。言い換えるなら小津並みである。しかし、彼女が様々なサークルで活動しているのは自身の可能性のためではないように見える。彼女もまた自分の不可能性のもとに行動しているように見える。彼女は薔薇色ではなく自分色のキャンパスライフを謳歌しているのだ。

 私はこの物語の私に共感してしまう。私も、熟考に熟考を重ね、石橋を叩き割り、そして好機を逃す。逃したことに気づいたときにはすでに詰み。なにをしても遅いのである。言うなれば根性なしなのだ。

 鏡を見ているのかとどこか恥ずかしい物を見るように読んだこの本には、私に現状を受けいれ、そこから自分にできることをゆっくりと成し遂げていく必要性を語りかけていた。

 話は変わるが、不可能性という言葉がとても気持ちいい。アイデンティティなどという横文字で表現しても、全く入って来ない。アイラブユーよりも君が好きだのほうがいい。でも言われるならどっちでも構わないし、嘘でもいいから愛していると言ってほしい。

 

最後に。アニメを全話見ました。

マシンガントークから始まって少し気圧されたものの、川の流れのように緩やかにそして時に激しく動く場面展開で、ほとんど一気見に近い状態で視聴。

面白かった。それと、明石さんが可愛かった。

以上。

  

四畳半神話大系 (角川文庫)

四畳半神話大系 (角川文庫)

 

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